2015年01月26日

モラル・ハラスメントの加害者について

モラル・ハラスメントの加害者について
Illustrated by mina.




芸能人の離婚訴訟に端を発してテレビなどでモラル・ハラスメントが取り上げられはじめました。
しかし、モラル・ハラスメントは学習せずにすぐに理解できるハラスメントではないので、しばらくは少々誤解されたまま広まることと思います。
モラル・ハラスメントという卑劣な虐待が多くのメディアを通じて白日のもとに晒され、その概念が大勢の日本人に知られるようになるには仕方のないことかもしれませんが、回り道は極力避けたいものです。

さきほどテレビで人気の帯番組を見ていましたが、モラル・ハラスメントの本質を視聴者にうまく伝えられていませんでした。
ハラスメント対策後進国の日本では致し方ないことですが、テレビの放送局にも詳しい人が沢山いるはずなので、番組を作る人はそういう人たちとよく話し、内容をよく練ってから放送してもらえたら、と切に願います。
なぜならば、モラル・ハラスメントは世代を超えて連鎖するとても根の深い虐待だからです。
(連鎖については後述します。)



加害者を擁護してしまう第三者が現れて被害者を責めてしまい、被害をより深刻化させてしまうのはモラル・ハラスメントの特徴として知られています。
モラル・ハラスメントについて知識を持たない第三者は、加害者の演技に容易に騙されます。
なぜなら加害者は世間に対して好人物を演じていることが多いからです。
加害者は24時間、365日、良い人であろうとしています。
毎日そればかり、考えています。
それは人としての自然な振る舞いではなく、偽装です。
良心を持たない彼らは良心を持っているフリをしているのです。
成長期に、人と人の相互作用について間違った学習をしてしまった結果、そうなります。
間違った学習をせざるを得ない環境の最もわかりやすい例は、児童虐待が行われている家庭です。
親から虐待され続けるのは異常な状況ですが、その親のもとで生きていくためにはその状況を子供なりに辻褄が合うように解釈しなければなりません。
その結果、とにかく親を怒らせないこと、親の機嫌を損ねないことを第一に考えて行動する子供に育ちます。
そして、良心について理解ができない子供に育ちます。
良心を理解することは、虐待を繰り返す自身の親を否定することにつながります。
虐待されている子供は、生活力が無い自分が親を拒絶することは己の生命の危機につながるということを本能で知っているのです。たとえ日常的に頻繁に、死につながるほどの虐待されていたとしても、です。

虐待されている子供は健気にひたすら思考を繰り返し、虐待されることと愛されていることの間に良い意味を見出そう、辻褄を合わせよう、とします。
自分を愛しているから厳しくするのだ、とか、自分が駄目だからこんなに怒らせてしまうのだ、と考えて耐えるのですが、極端な例では、どの家庭でも実は自分と同じ教育=実は虐待が行われているのだ、と考えてしまうようです。
親から傷つけられても耐える、という幼少期を経て、次第に家庭以外の世界と触れ合う機会が増えると、自分の親の異常さに気づく人がほとんどですが、まれに、歪んだ価値観のまま大人になる人がいます。

例えば、歪んだ価値観を持ったまま大人になった夫は自分の妻にも自分の幼少期のように辛い目に遭ったら耐え忍ぶべきだ、と実は考えています。


よくあるパターンをひとつ。
モラル・ハラスメントの加害者が夫で、被害者が妻である場合。

好青年を装い、好みの女性に熱いラブコールを送り続けて求婚し、妻として迎えいれてしばらくは、妻の前でも良い夫を演じ続けますが、本性を隠して社会生活を送っているストレスはどんどん蓄積されます。

そのはけ口を夫は常に探していますが、良い人であらねばならないのでそういう機会はなかなかありません。



しかしその日は、突然やってきます。

夫は気づきました。
妻には何をしても良いのだ、と。

最初は、指摘や指導、教育という形で。
妻が、自分が子供のときのように従順にひたすら耐えようとしないことに夫が気づいて首をひねったとき、夫にとって妻の価値は一気に下がり、妻は人では無いただのモノと化し、心的虐待が始まります。
心的虐待が止むとき、隠されるときは、第三者がいるときのみです。
最初の頃は、普段とは打って変って人前では良く出来た妻だと褒めますが、妻が反旗を翻し始めたり心的虐待がマンネリ化し変化が欲しくなると、次第に友人や肉親など近い人には、愚妻で苦労している、と言い出します。
その際の被害者ぶりは天才的な役者のようだと言われますから、第三者が騙されるのは致し方ないかもしれません。
この天才的な役者ぶりには、当初は被害者である妻でさえ騙されます。
酷い目にあっても夫に抗議したり、知り合いや肉親に相談したり、家を飛び出したりなかなかできないのは、夫への恐怖心に加えてどこかで夫を信じなければいけない、と思うように巧妙な演技で心を操られているからです。

心的虐待を繰り返すうちに夫は次第に妻のことを、自身の世間からの評価を高めるために利用する道具である、としか考えられなくなります。
それはもしかしたら、親に虐待されながらも必死に耐えていた幼い頃の自分を肯定するための唯一の道具、なのかもしれません。

加害者は周りに本性が知れてしまうことを恐れます。ゆえに心的虐待が第三者にばれたときのことまで計算に入れて、夫は虐待を繰り返します。
それだけではありません。ばれないように虐待する方法を思案すること自体をいつしか楽しみ始めます。

他人が後から聞けば、どちらにもとれるような言動、態度で妻を精神的に虐待しておくのですが、その悪しきテクニックは妻の精神をズタズタにし、奴隷のようにコントロールすることを容易にし、逃げる気力さえ奪うのにも使われます。
例えば正解があってないような事柄において、妻にどちらかを選ぶように言葉や態度で強要し、妻が選ばなかった方を正解にしてなじったり、冷たい態度で無視したり。


そんなことは人に頼らず自分で考えろ、

と言われてそうしたら、

どうして勝手にそういうことをしてしまうのだ、

と責め、次にならばこれはあらかじめ相談をしせねば、と夫に恐る恐る話しかけたら、

やっぱりお前は駄目だ、一度叱られたぐらいで人に甘えて、

と軽蔑した態度を取られる。

よく知らない人からではありません。
愛して尊敬していた人物から、ある日を境にこんな行為を毎日繰り返し行われたら、心が乱れます。
一つ一つの攻撃は、大変小さな吹き矢が刺さった程度のものかもしれませんが、それが長い年月に渡れば妻の身体は吹き矢の矢だらけになり、ハリネズミのようになってしまうでしょう。
しかし世間の夫に対する評価は相変わらず良いままです。
むしろ妻を虐待してからの方がいきいきしていたりします。


難解なパズルのような心的虐待、と一つ前の記事に書いたわけ、わかっていただけるでしょうか?


モラル・ハラスメントは周りの人に知られないよう、親しい関係性を利用して繰り返し行われる大変恐ろしい心的虐待ですが、加害者が瞬時にそんなことを考えて実行できるのは、幼少期にそういう目に自分が遭ってきたらからです。

誤解をしていただきたくないのは、虐待を受けていた人がみな、モラル・ハラスメントの加害者になるわけではありません。
むしろほとんどの人が自身の不幸な生育歴の異常さに気づき、連鎖を断とうと苦しみ、努力をされています。
しかし、気づけずそのまま大人になる人もたくさんいるのです。


こうした知識を持っていても、実際にモラル・ハラスメントの被害に遭ったり被害に遭った人と話すまではそんな人格を持つ人が周りにいるなんて、にわかに信じられないと思いますが、肉親やご友人、お知り合いから似たような話を聞いたときは、過去のご自身の経験や常識で判断せず、先入観を捨てて、とにかく慎重に対応してください。
第三者が被害者を苦しめるケースは大変多いです。

なお、生育歴の異常さに気づける機会が日本は少ないと言われています。
欧米では加害者が更正するためのカウンセリングプログラムが開発されており、一般人がそうした情報を目にする機会がふんだんにあるからです。
日本では、加害者が自身の異常さに気づいても相談したり治療する場所がなかなか見つからないそうです。
日本では医師でさえ、モラル・ハラスメントのことをよく知らないのですから。
専門家のレヴェルアップを切に願います。


とはいえ、この十数年で次第に日本人のカウンセラーの方や医師が書いた良書が読めるようになりました。
悩んでいる方は手にとってください。
最近はそうした良い本が、図書館にも置かれていることが増えました。




追記
子を虐待する親は、親から虐待された子であるかもしれない、という悲しい連鎖についても、どうか心に留めておいてください。















To be continued.




Posted by anti-moral harassment project  at 22:11



削除
モラル・ハラスメントの加害者について